第112章 恋愛で※
「・・・ひなたから、くれるのか?」
キスを強請ったことは流石に伝わったようで。
けれどそれを叶えるのは、自ららしく。
聞いてきたのは零の方なのに、と軽く唇をキュッと縛っては、彼を見下ろす体勢で、唇に触れさせていた指の力を僅かに強めた。
「・・・っ」
ここに自分の唇を触れさせるだけ。
幾度となく行ったその行為が、自らになるだけで、こんなにも動揺し躊躇う行為になるなんて。
酷く不思議だと感じながら、徐ろに顔を近づけた。
「・・・・・・」
彼の唇に触れていた指をスッと外し、手を彼の首裏へと回す。
そのまま腕を伸ばし、抱きつくように彼の体に添わせた。
「・・・ひなた」
その私の動きが止まると、彼は私の名前を呼んで、行動の意味を言葉無く問い掛けた。
彼が問うのは無理も無く、自ら強請ったキスをせず、ただ彼に抱きついただけだったから。
「キスじゃなかったのか?」
言い聞かせるように話す彼に、抱きついているせいで見えないけれど。
ムスッとした表情を作っては、そうだけど、と心の中だけで呟いて。
「・・・目、塞いでてもいい?」
見つめられると、できそうもない。
心の内を全て見られているようだから。
抱きついていた腕を解き、視線を混じり合わせながら尋ねると、彼は困ったようにフッと笑って。
「・・・致し方ないな」
渋々、といった様子で許可をくれた。
「・・・・・・」
早速その綺麗な瞳から私を消そうと、ゆっくり指を彼の瞼へと触れさせて。
両方のそれを全て覆い隠した瞬間、何とも言えない背徳感は襲ってきたが、不敵に上がっている彼の口角が、見えない彼の目を見せているようだった。
「っ・・・」
勢いのまま。
彼に触れさせた私の唇は、酷く震えていたように思う。
欲しいのはこんなキスではない。
体がそう訴え、私も本能に従おうとしたけれど。
・・・彼の口が開かない現状に、更に唇は震えた。