第112章 恋愛で※
「今でも、ひなたのことは好きだから」
「!!」
私の手を掴んだかと思うと、グッと顔を近付けられて。
笑顔なのに。
どこか掴めない表情で。
真面目な雰囲気と、どこか強い圧に押される感覚に、手は握られたまま体は少し仰け反るように距離を取った。
「次泣かせたら、俺が攫いますよ?安室さん」
・・・零が原因で泣いたことなんて、一言も言っていないのに。
そういった意外と鋭い勘は、昔もそうだった気がする。
「・・・気を付けます」
零も笑顔で返すけれど。
雰囲気に柔らかさは無い。
それは、互いに笑顔で見つめ合うお互いに言えることだが。
「じゃあな」
彼は最後に私の頭を数回軽く叩くと、持っていた傘を押し付け、雨の中をパトカーの方へと走り去って行った。
「・・・・・・」
・・・ああ、今。
良くない顔をしている気がする。
顔が熱くなって、心臓がギュッとなって。
それを誤魔化すように、口元へ手の甲を押し当ててみるけれど。
「・・・なんて顔してる」
「だって・・・」
すぐ隣にいる零に、隠し通せる訳もなく。
渡された傘で覆うようにしては、顔を背けてみたけれど。
くぐるようにして傘の中に入ってきた零に驚き、目を向けた瞬間、その手は彼に取られ、唇は彼の唇で塞がれてしまった。
「・・・気に食わないな」
「・・・ッ」
数秒後、ゆっくり唇が離れ、鼻先が触れそうな位置で目を合わせられながら、そう言われた。
彼の言ったことは、もっともだと思う。
零ではない、別の男性に頬を染められれば、誰だって良い気はしないはずだ。
「・・・・・・」
けど、頬を染めたその理由は。
きっと彼が思っているものではなくて。
「零・・・」
その事もそうだけど。
まずは彼に・・・。
「すまなかった」
・・・謝らなければ。
そう思った矢先、それは彼に先を越されてしまって。