第112章 恋愛で※
「知ってたんですか・・・!?」
「いえ。先程、彼らを抑える際、かなり薬物の匂いがしましたので。昨日の貴方からも」
・・・それを聞いた時だった。
色んなことを察したのは。
「お、俺も・・・!?」
「ええ。長い時間、一緒に居たようですね」
昨日、零が彼と会って眉間に皺を寄せたことも。
なぜ逃げなかった、と言ったことも。
悪い人じゃない、という私の言葉に返した、あの言葉も。
「・・・アイツらの車に暫く乗ってたので、それが原因かもしれません。誘われた瞬間、断って逃げたんですけど」
「正しい判断だと思いますよ」
やっぱり・・・私が悪かった。
勝手に勘違いして、逃げただけだった。
志保さんの言う通り、話をしないことが間違っていた。
「でも警察に言わなかったのは、間違いかもしれませんね」
「・・・すみません」
実際、こうして警察が動いてしまったけれど。
これは不幸中の幸いなのだろうか。
「いえ。こちらこそ、ただの探偵なのに偉そうにすみません」
ただの探偵、か。
まさか零が公安の人間だとは思わないだろうし、これからも知ることはないのだろな。
そんなことを思っていると、零は着ていたジャケットを突然脱ぎ始めて。
それを私の肩へ掛けるように被せると、前を持っているように指示した。
「・・・怖い思いさせて、ごめんな」
「あ・・・ううん。大丈夫」
ヒロくんは徐ろに近付くと、謝罪の言葉を口にして。
彼が謝る必要はないのに。
結局いつも謝らせてしまっている。
それに、これくらいの事なら慣れている。
これ以上のことをいくつも経験してきた。
彼を助ける術を持っていなかったことの方が、余程怖かったかもしれない。
「一応、傷害の件もありますから、警察には行かれた方が良いかと思いますよ」
「・・・そうですね」
そう言っている間にも、微かにサイレンの音が聞こえてくる。
そして、彼のこの目は・・・まるで行きたくないと返事をしているようで。
「じゃあ、俺はこれで」
いくら悪い人達でも、彼は人の良い部分ばかりを見ているから。
きっと警察に行っても、被害届は出さないだろうな。
「あ、そうだ。最後に一つだけ・・・」
彼らしい。
そう思っていると、サイレンの音がする方へと向かいかけた彼は突然振り返るなり、何故か私に駆け寄ってきて。