第112章 恋愛で※
その行動は、彼らしいと思った。
付き合っていたと言えるのかどうかも怪しいあの期間も、いつもどこか一歩引いて、私のことを気にしてくれていた。
結果それが良かったのかは・・・分からないが。
「突然掴んで、ごめん・・・」
「ううん、大丈夫・・・」
こういう時、謝るのは彼の方からだった。
だからいつも申し訳無く思っていて。
・・・それが離れていく要因の一つだったかもしれないことは、言わない方が良いのだろうな。
「その・・・久しぶりに会えたから、どこかで少し話をしないか?」
彼の言葉通り、純粋に話がしたいと言ってくれているのかもしれない。
けれど、そういう誰かを誤解させる行動は避けるべきだと思って。
「今日は用事があるから・・・」
目を見るどころか、俯きながら断ったのに。
「そ、そうだよな・・・!ごめん・・・!」
彼は何も悪くないのに、再び謝った。
「・・・変わらないね」
その様子に、思わず本音が漏れた。
あの頃も、こちらの方が申し訳なくなるくらい、彼は私を丁寧に扱った。
大切にしたい、という告白の言葉通りの日々で。
それに不満なんて持ったことは勿論ない。
けれど私といることで、彼を縛り上げているような気には・・・なっていた。
「・・・・・・」
数秒後、俯いたままだった視線は、思わず上がった。
彼からの返答がない上、僅かに視界に入っていた彼の体が、ピクリとも動かなくなったから。
疑問に思いながら見上げた彼の表情は、何故か唖然としたもので。
「どう・・・したの?」
何故止まったのか。
小首を傾げながら尋ねると、彼は口元を手で隠しながら、視線を私から外して口ごもった。
「いや・・・」
こういう時、察することができない自分は嫌になる。
「そんな風に、笑えるようになったんだな・・・って」
その言葉が本当かどうか、判断が正しく出来ないから。
そもそも、私には笑った自覚すら無かった。