第112章 恋愛で※
あの日の出来事が良くなかったことは私でも分かる。
けれど、どうすれば良かったのかは分からなくて。
最初から相手にしなければ良かったのか。
挨拶だけに留めておけば良かったのか。
何が正解だったのか。
ーーー
数日前のある日。
杯戸町に用事があった私は、駅の辺りを歩いていて。
必要な物を書き出したメモを片手に進んでいると、突然それとは反対の手を引かれた。
「!」
突然のことに驚き振り返ると、そこには僅かに見知った懐かしい顔があった。
「ひなた・・・だよな?」
今思えばこの時、人違いだと言って去れば良かったのかもしれない。
「久しぶり」
「・・・どうも」
でも目の前の彼に名前を呼ばれ、思わず表情が反応してしまった。
見開いてしまった目は、自ら間違いがないと返事をしているも同然で。
「何でそんなに堅いんだよ」
クスクスと笑いながら話すその姿は、昔と変わりない。
そう思うと、懐かしさと同時に申し訳なさも芽生えてきて。
彼とは以前、付き合っていたという過去がある。
所謂、元彼という間柄で。
「元気にしてたか?」
「・・・うん」
別れが壮絶だった訳でも、交際中に仲が悪かった訳でもない。
彼から告白され付き合ってみたものの、結局私にはそういう感覚が分からなくて。
「そうか。良かった」
明確な別れ話も無く、何となく彼とは疎遠になった。
悪い人ではない。
寧ろとても良い人だった。
でも私には彼がその“良い人”から変わることがなくて。
「じゃあ、私は・・・」
込み上げてくる申し訳無さは、彼に向けてなのか。
それとも、零に向けてなのか。
とにかくこの状況から早く立ち去りたくて、再び足を進めようとした時。
「・・・!」
先程と同じように、彼に手を掴まれてしまった。
「ご、ごめん!」
けれどその手はすぐに離され、同時に謝罪の言葉を口にされた。