第112章 恋愛で※
「・・・ッ」
ああ・・・限界だ。
人間、これ程まで追い込まれると、逆に冷静になってくるのか。
・・・いや、知っていた気もする。
今まで何度も追い込まれてきたから。
「っ・・・は、ぁ・・・ッ」
走馬灯のように、そう遠くない昔のことを思い出していると、枯渇し切った空気を取り込むタイミングは突然に訪れて。
体に空気が足りなくなり過ぎると、取り込むのも困難に感じる。
窒息ギリギリだったと目で訴えれば、彼の目はこの上なく意地悪に私を見つめてきて。
「・・・可愛い」
そう、表情以上に意地悪な声色で、言ってみせた。
「もっと、追い込みたくなる」
こういう時の彼がいつも意地悪なのは何故だろう。
警察官特有のものだろうか。
それとも、その逆なのか。
「ンっ・・・」
そんな事を考えている内に、耳元へ彼の唇が近付いて。
一瞬でも気を抜いたり隙を見せれば、途端に攻撃を仕掛けられる。
その度、自分の学習能力の無さを痛感してしまう。
「もう一度、聞かせてくれないか」
「・・・っ」
身構えていた体に、静かに囁く彼の声が優しく届いて。
その瞬間は何を言われたのか、脳ですぐに判断ができなくて。
言われた瞬間はピクリと小さく肩を震わせた後、何度も彼の言葉を脳内再生してみたけれど。
やはり何のことか分からず、彼を見て目でそれを伝えた。
それを受け取った彼は、小さくフッと笑うと、私の手を握る力を更に強めて。
「・・・何度でもくれると言っただろ?」
やはり意地悪そうに、そう言った。
「・・・っ・・・」
言った。
間違いなく、言った。
けど、さっきよりも妙に恥ずかしいのは何だろうか。
外でもなく、一度目でもない。
恥ずかしがる要素は少ないはずなのに。
この妙な緊張感が、体をゾワゾワと震わせる。
「・・・ひなた」
加えて、この彼の声が。
酷く私の気持ちを、煽ってくる。