第111章 きっと
「ひなたのそういう所も、愛してる」
「!」
目が合った瞬間だった。
いつもの、私を捕らえて離さない目をして、そんな事を言うから。
屈んでいた体勢から、思わず倒れそうになった。
「・・・っ」
けれど、彼はそれを私の腕を掴んで阻止したかと思うと、そのまま引き上げて自らと共に立ち上げた。
「悪いが、我慢の限界だ」
「?」
何の、と目で問えば、彼は答える時間すら惜しいと言うように、握っていた私の腕を再び引いて走り出して。
「わ、わ・・・っ!」
「帰るぞ」
全ての速さについていけない。
そう訴える暇すらない。
足が縺れ、前のめりになりながらも、何とか走る彼についていって。
何が何だか分からないけれど。
走れば走るほど、自分の中から何かつっかえていた物が、少しずつ無くなるようで。
段々とスッキリしていく気持ちが、手に取るように分かった。
ーーー
「・・・っンむ・・・んン・・・ッ」
帰って玄関のドアを開け、中へと引っ張られるように入れられて。
体を、握られた両手と共に壁へと押し付けられたかと思うと、そのまま口を勢いよく塞がれた。
「れ・・・っ」
舌が。
深く絡んでくる。
空気を取り込もうと隙間を作る度、そこはすぐに塞がれる。
ただでさえ走って帰って息が上がっているのに。
上手く空気を取り込めず、酸欠で頭がくらくらし始めた。
「っは、ぁ・・・ッ、んっ・・・んぅ、っ!」
何故か涙が滲んでくると、僅かに彼は唇を離して。
ようやく空気が吸える。
そう考え行動に移したのも束の間。
すぐに唇は触れ直し、舌が奥深くまで絡んできて。
「んうっ、ンん・・・ッ!」
限界だ、と彼を叩いて訴えようとするけれど。
両手は彼に繋がれたまま壁に押さえ付けられ、ビクともしない。
するつもりはないが、逃げも隠れもできない状況だった。