第111章 きっと
「・・・ちょっと待って、志保さんからは本当に何を聞いて・・・」
「言っただろ?聞いたというよりは叱られた、と」
本当に・・・言葉通りとは思わなかった。
何かを聞かされ、彼なりに察したのだと思った。
「何も聞いてないの?」
「聞いていないといえば、そうなるな」
「風見さんからは?」
「僕が風見から無理に聞き出したと思うのか?」
立て続けに質問を重ねるが、聞けば聞く程、自分の掘った墓穴が深くなるばかりで。
尋問された訳ではないが、自分から吐いてしまったということか。
「言っておくが、書類一枚で安心できるならとっくに出しているさ」
「・・・そうだよね」
元々、出しても問題はないものだ。
けれど慎重な彼は、少しでも危険を避ける為に出さないだけで。
彼にとってそれが安心材料になるか冷静に考えれば、答えは自分でも出たはずなのに。
「僕はひなたが、そう思っているのだと思っていたが」
彼の言う通り、最初は自分でもそう思っていた。
「正解でも不正解でも無いけど・・・別に不安は無いよ?」
けど自分ではなく、彼の不安だと気づいては、勝手に解決できないものと決めつけて落ち込んでいただけで。
「零は?どうすればマシになる?」
婚姻届ではなく。
何をすれば彼の不安は軽くなるのか。
一人で悩んだって答えが出ないのは痛い程分かった。
なら、彼に直接聞くのが一番だ。
「・・・・・・」
もうこの際ヤケで。
最終手段を使った瞬間、彼は一瞬私から視線を外して。
考える素振り・・・というよりは、言うかどうかを躊躇う素振りを見せた後、言葉を飲み込むように口へ手で蓋をした。
「・・・零?」
言うかどうか迷い、結局辞めた。
そうした事は分かったけれど。
でも同時に、顔を真っ赤にさせる理由は分からなくて。
「大丈夫、今まで通りのひなたでいてくれれば十分だ」
そういう彼の顔には、全てが書かれているようで。
今日の彼は、誤魔化すという事ができないようだ。
私にそれを見抜かれる程には。