第111章 きっと
「ま、待って・・・!」
試着室から顔だけ覗かせながら、外で待つ彼の服を咄嗟に掴むが、彼は笑みを保ったまま私の耳元へと顔を近付けて。
「公安の犬に待ては、きかない」
「・・・っ」
私にだけ聞こえるように、そう囁いてみせた。
何も言うことを許されない。
そもそも、ここに来ることは最初から予定されていたように、真っ直ぐにここへと来た。
それに、服も迷う様子無く、真っ先にこれを選んでいた。
・・・まさか、とは思うけれど。
最初からここは彼に仕組まれていたのだろうか。
いや、今日出掛けることになったのは偶然だ。
帰ってきた時もあんな様子だった。
それなのにここまで準備することは流石の彼も・・・。
「着替えられたか?」
「も、もうちょっと・・・!」
変に考え込んだって分かりっこない。
半ば考えることを止めながら着替えを済ませると、ゆっくり試着室のカーテンを開いた。
「似合ってる」
未だ羞恥と戦う私を満足そうに見つめ、そのまま手を引いて彼は店内を後にした。
会計は良いのか、と尋ねると、もう済ませているという返事がされて。
やはり仕組まれていたのでは、という疑いが大きくなる中、次に連れて行かれたのは、とある公園で。
「・・・・・・」
この公園に来るのは久しぶりだ。
以前来た時は、良い思い出では無かった気がする。
エッジ・オブ・オーシャンや、はくちょうのカプセルの事件以来・・・だろうか。
「・・・ひなた」
「ん?」
ふと懐かしい記憶を呼び起こしていると、彼は少し真面目な声色で私の名前を呼んで。
隣に居たはずの彼が背後にいることに気が付くと、体を反転させ振り返った。
そこに立っていた彼の雰囲気は先程までと違い、真剣な表情と眼差しを私に向けていた。
「僕は毎日が不安だ」
「・・・!」
何故か突然、雰囲気が一変した事に加え、彼は突拍子が無いことも吐露し始めて。
突然過ぎることに、思考回路も行動も言葉も。
私の全てが停止した。