第111章 きっと
「また危険な目に合うんじゃないか。僕より幸せにできる人がいるんじゃないか、と」
普段、あまり彼から弱気な言葉を聞くことはできない。
それを覆い隠すのもまた、上手だから。
それに気付いてあげられたら。
取り除いてあげられたら。
そうは思っているけれど、こうして彼の口から本音を聞けば・・・そんな事は到底無理なのだと実感する。
「ただ、僕が幸せにしたいと思う気持ちに変わりはない」
「・・・うん」
それは、痛い程分かっているつもりだ。
私は彼に、十二分に愛されていることを実感している。
彼がきちんと、言葉にも、態度にも出してくれているのもあるが。
何より彼が私に向ける表情で。
全てが伝わってきている。
「時々、僕が幸せを感じれば、同時に後ろめたさを感じる時がある」
少し離れていた彼との距離を詰め直すと、向かい合った状態で、今度は私から彼の手を取った。
それをキュッと握ると、彼は更に本音をそう零して。
「・・・それは、お友達に?」
「そう・・・だな」
彼の亡くなっていった友人達。
零の中にいる、彼らの存在を離すことはできない。
いつだってその存在を大切にし、気にしているのは、とても彼らしいと思っていて。
大事にしてほしいものだと、私も思っている。
「でもアイツらなら・・・ひなたを泣かせることの方が怒る気がするんだ」
私はその友人達を、写真でしか見たことがないけれど。
何となく、それが分かる気がした。
「じゃあ、私も零を悲しませたら怒られちゃうね」
零がその友人とどのように話し、どのように過ごしていたのか。
彼を見ていれば、その光景が見えてくるようだった。
「・・・ひなた」
彼の手を握っていたのは私のはずだったのに。
いつの間にかそれが逆転していることに気付いた瞬間、彼から再び真剣な声色で名前を呼ばれた。
それに背筋を自然と伸ばすと、次の言葉が出てくるのを静かに待った。