第111章 きっと
彼はたまにこうして自分が作ったものとは違うものを食べて、ポアロの新メニューを作る時の参考にしている。
以前、彼の作ったサンドイッチが美味しいと話題になり、どうにかレシピを探ろうとしていた人もいた事を薄ら思い出しながら食べ進めていると。
「・・・・・・」
先に食べ終えた彼が、私をジッと見つめていて。
なるべく気にしないようにしていたが、恥ずかしさと気まずさから、パッと彼の方に視線を向けて。
「お、遅くてごめんね・・・」
いつも同じくらいに食べ終わっているのは、彼が合わせてくれているからなのか。
それとも、今日の私が遅いのか。
なるべく早く食べるから、と急ぎ始めた手を、彼は徐ろに掴むと、私の目をジッと見て。
「遅くないさ。僕の奥さんは可愛いんだと、実感していただけだ」
「!!」
妙な言い回しで、再び私の顔を真っ赤に熱くさせると、彼は満足そうな笑みを浮かべた。
・・・悔しい。
照れと同時に、そんな感情も生まれる始末で。
私ばかりが恥ずかしくて、戸惑って、動揺して。
彼のこともどうにか照れさせてやりたい、と変に闘争心を燃やしながら、残りのカレーを口に運んだ。
ー
「次はここだ」
そう言って彼が次に連れて行ったのは、明らかに彼が着るものではない洋服が沢山並ぶショップで。
ということは、つまり。
「わ、私・・・?」
「流石に僕ではないだろ」
クスクスと笑いながら、彼は私の手を引いて店内に入るけれど。
こんなに可愛い服が、私に似合うはずがないと体を縮こませると、キョロキョロと挙動不審に店内を見回した。
「ひなた」
彼なら何だって似合うのに、と下唇を軽く噛んでいると、ふと彼に名前を呼ばれ振り返った。
「これ、着てくれないか」
そう言った彼の手には、普段私が着ないようなワンピースが手にされていて。
無理だ、と首を大きく横に振る私を気にする様子もなく、彼は服と私を試着室に詰め込んだ。