第111章 きっと
部屋を後にし、何の目的も無く歩き始めた。
本当に何も意図無く歩いているのだろうか。
それとも、自然と探偵か公安の彼の仕事に、付き合っているのだろうか。
こう考えてしまうのは悪い癖なのかもしれないが、染み付いたそれは簡単に拭えるものでもなくて。
「・・・!」
悶々と1人考え込んでいると、隣を歩いていた彼の左の手の平が、自然と私の右の手の平に合わされて。
スルっと指が隙間に滑り込んでくると、そのままギュッと力を軽く入れられた。
「かなり秋らしくなってきたな」
「そ、そうだね・・・」
手を繋いで、何気無い会話をしている。
たったそれだけのことなのに。
こんなにも顔が熱くなるのは何故なのか。
その要因の1つが、指から感じる彼の指輪の感覚だということは、間違いないと思うけど。
「少し遅いが、たまには外でランチはどうだ?」
「うん・・・」
会話が・・・頭に入ってこない。
隣を歩くことも、手を繋ぐことも、全て初めてな事ではないのに。
彼と一緒だと、色んな意味で心臓が幾つあっても足りない。
ー
暫く歩き、彼はオススメだと言うカレー屋さんへと私を連れて行ってくれた。
オススメということは、以前にも来たことがあるということで。
私のその僅かな心のざわつきを、彼は簡単に見抜いて。
それが風見さんだということは、すぐに教えてくれた。
変な嫉妬心を見抜かれたことを誤魔化しつつ注文を終え、料理が運ばれてくると、彼は別添えにされていたジャガイモをカレーの中へと入れ始めた。
「こういうタイプも良いとは思うが、やはりジャガイモはカレーの具として食べたいんだ」
それをジッと見つめていた私へ説明するように、彼がそう言って。
同調、と同時に、僅かに感じる庶民感が何とも言えない親近感を覚えた。
今後カレーを作る時は必ずジャガイモは中に・・・という今度があることに、この上ない幸福を感じた。