第17章 侵入者
元々透さんと接するきっかけは兄についての依頼だった。
だからそのことについて細かく書いてあることは不思議ではなかったけれど。
「・・・やっぱり知ってたんだ」
そこへは兄の経歴の他に、組織に潜入していたことも書いてあって。
あれは、私をこれ以上組織に近付けない為の言葉だったのか、それとも何か他の意図があったのだろうか。
消えない疑問ばかりが増えていって、頭がパンクしそうだった。
私の事まで詳しく調べているということはやはり、組織で兄のことを知っていて、所謂スパイである兄と私に繋がりがあると透さんは考えた・・・。
忘れようとした沖矢さんの言葉が蘇るようだった。
どの企業に勤めて、いつ辞めたかも書いてある。その事から、透さんは私が無職なことを知った上で探偵業の助手を持ちかけた。そして、更に監視下へ置く為にポアロにも。
・・・最悪、透さんは私の事を何とも思っていないかもしれない。
ただの組織の仕事として、私を監視しやすく言うことの聞く存在にしておいた。
甘い言葉で私を惑わせて。
与えられたあの言葉はやっぱり全部嘘で。
そう考えれば自然だし、辻褄が合う気がして。
でもそれはとてもじゃないけど受け入れ難い真実。
「・・・・・・っ・・・!」
急に胃の底から沸き上がるように吐き気がして、手を口で塞ぎ、部屋を飛び出しトイレへ急いだ。
着くなり胃の中から拒絶されたものを吐き出した。
苦しい。
苦しくて仕方ない。
心も、体も。
「・・・っは・・・ぁ・・・、はぁ・・・」
暫く何も考えられなくて。
汚れてしまった手や口元を洗い、トイレ前の廊下で立ち尽くした。
透さんを組織から抜け出させる、なんて大きなことを言ったけれど。
彼が望んで組織に入ったのだとしたら。
それはもう・・・。
「大丈夫ですか」
声がする方に顔を向けると、沖矢さんがこちらに歩み寄っていて。
「顔色が悪いようですが」
それは自分でも感じる。
なんだか力が・・・入らない。
目の前が・・・暗く・・・回って・・・。
「ひなたさん?」
私を呼ぶ声がする。
少し驚いた沖矢さんが見えた気もする。
でもそう思ったときには、私は意識を手放していた。