第111章 きっと
「ひなた・・・」
「だめ・・・っ、何が何でも寝て・・・!」
何か言われる前にベッドへ押し込み、布団を掛けて。
栄養ドリンクの様なものでも買ってこなければならないだろうか、と考え始めた時。
「ひなた、落ち着け」
ベッドに押し込んだ彼は私の手を掴み、宥めるように優しく声を掛けられた。
「お、落ち着いてるよ・・・」
落ち着いている。
少し動揺のようなものはあるけれど。
自分では落ち着いていると思っている。
「ひなた」
・・・思って、いたけど。
彼の紛うこと無き落ち着いた声でもう一度名前を呼ばれると、思う程落ち着いてはいなかったことを、思い知らされた。
「・・・ごめん」
ようやく落ち着きを取り戻すと、知らず知らず体に入り切っていた力を、ゆっくりと抜いていった。
「いや、僕の方が謝らなければならないだろ」
視線を落とす私に、彼がそう言うから。
昨日のことを覚えていたのか、と顔を上げると。
「・・・!」
掴まれていた手を引かれ、顔を見る間も無くベッドの上で座る彼へと体を落とされた。
彼へと突っ伏すように倒れたせいで反射的に目を瞑ってしまったが、徐々に瞼を上げながら顔も上げると。
「・・・とりあえず、ただいま」
目が合った瞬間、優しい表情でそう言われたから。
「おかえ、り・・・」
少し戸惑いを覚えながらも、返事をした。
ただ、それに笑顔を向けられたのも束の間。
次の瞬間には、真面目の上をいくような表情を向けられていた。
「・・・早速で悪いが、僕が帰ってからのことを・・・教えてくれないか」
ああ・・・やっぱり覚えてはいなかった。
では何故、先に謝ったのだろう。
帰った記憶が無い時点で、何かしてしまったと察したのだろうか。