第111章 きっと
「零・・・ッ!」
痛い、と抗ってみるけれど。
異常に強い力で縛られているせいで、体はビクともしない。
これはかなり容赦無く・・・噛まれている。
混乱する脳と痛みに耐える体が、思考回路を鈍らせていった。
「ッ、ひぁ・・・!!」
彼が強く噛んだ痕を撫でるように、柔らかく温かい舌が這っていく。
妙な感覚を掻き立てられるそれにビクッと体が反応すると同時に、甘い声が無意識に漏れ出た。
「待っ、て・・・落ち着いて・・・ッ」
絶対に異常だということを確信すると、精一杯の力を込めて抵抗した。
それでも動く気配のない彼の腕は、剥せるどころか、どんどんと私を締め付けていくようで。
打開策の無さから、焦りが先行し始めた。
「零っ、零・・・!」
とりあえず何度も名前を呼んでみるけれど。
服の裾から彼の手が伸びてきた瞬間、ゾクッという感覚が全身を駆け巡った。
・・・これは、快楽ではない。
単純な、恐怖だ。
何をされるか分からない、という恐怖。
それを感じた瞬間、所謂、火事場の馬鹿力というものが出て。
勢いよく彼の腕の中から逃れると、バランスを崩しながらもキッチンに向かった。
そこのテーブルの上には、スマホがある。
一度風見さんに連絡を取るのが賢明だと判断し、それを取りに向かおうとしたのに。
「!?」
そのスピードにすら勝てない。
気付けば腕を引かれ、ベッドに叩きつけられるように投げられて。
その上から手を握られ覆い被されば、逃げ道なんてどこにもない。
「・・・れ、い」
どうなるのか分からない状況に、心臓は速さを増していく。
苦しくて、痛くて。
ただ彼を見つめる事しかできないまま、荒い呼吸を繰り返した。
「・・・ひなた」
そんな時、彼はポツリと私の名前を呼んで。
暗く、髪が乱れているせいで彼の表情までは分からないけれど。
酷く切ない声で、呼ばれたのは確かだった。