第111章 きっと
「・・・・・・」
・・・彼の言っていた通り、傷はないようだけど。
それでもこの疲労具合は尋常ではない。
何日も眠っていないのではないだろうか。
「零、ベッド座ってて」
スーツを掛けながら、そう言ってみるけれど。
彼が行動に起こす様子は微塵も無い。
仕方なく背中を押してベッドに誘導すると、突き倒すように体を強く押した。
無防備にベッドへと落ちた彼は、いつもの彼とは到底呼べない。
この部屋に、よく戻って来られたな・・・とさえ思う。
どんな激務だったのか、想像も聞くこともできない。
その役に立つことも・・・今はできていない。
せめて探偵業だけでも、少しでも・・・楽に。
燃え尽きたようにベッドへと座る彼に背を向け、水でも取ってこようとした瞬間。
「!?」
ガクンっと足から力が抜かれ、膝から落ちるような感覚の中、体は何故か後ろへと倒れていて。
それは彼に腰を引かれ、そのまま膝へ座るように落ちたせいだということに、一瞬では気づけなかった。
「れ、零・・・?」
「どこに行く」
恐る恐る振り向こうとするが、振り向ききる前に彼からそう問われた。
「お、お水取りに・・・行こうと」
こう低い声で質問されると、尋問されているような気になってしまう。
色んな意味で心臓をバクバクとさせていると、途端に背中へゾクゾクとした感覚が一気に走った。
「零・・・っ!?」
そんな中、彼の口元が首の横辺りに触れたかと思うと、そこから何故か空気を取り込まれて。
その何とも言えない感覚が、全身をフルっと震わせた。
「行かないでくれ」
さっきまでと全く違う声色で話す言葉は、麻薬のように体へ溶け込み、脳までもをおかしくさせる。
咄嗟に彼から距離を取ろうとするが、体をがっちり腕で縛られていて身動きが取れない。
その腕に手を掛け剥がそうとしていると、グッと体を引き寄せ直され、再び首筋に彼の気配が近付いたと思うと。
「・・・ッ!?」
鋭くも鈍い、じんわりとした痛みが広がった。