第111章 きっと
「・・・ハロくん?」
「あん!」
・・・嬉し、そうだ。
そう直感で感じる程、彼の表情に現れている。
その理由がこの扉の先にあるのだとしたら。
「・・・・・・」
ハロくんの視線の先を追うようにドアへと目を向けると、ゆっくり音を立てないよう更に近づいて。
覗き穴から恐る恐る外の様子を確認し、目に飛び込んできたその姿に、心臓が大きく反応した。
それと同時に自然と解錠し、扉を開いて。
「・・・っ!」
次の瞬間、目の前にいた人物はフラフラとした足取りのせいか、バランスを取るようにドアの縁へと手をかけた。
それを支えるように手を伸ばすと、肩へと手を置いて。
「だ、大丈夫・・・?」
帰らないと言っていたのに。
そこには、珍しく疲れきった姿で俯く、零の姿があった。
「・・・あぁ」
目も合わせないまま、彼はおぼつかない足取りで部屋へと入っていって。
いつ倒れてしまうか分からない様子にヒヤヒヤしながら、その体に手を添えた。
「怪我してない・・・?」
「・・・していない」
何とも事務的というのか、私のことが見えていないような受け答えに不安が募った。
前にも一度、疲れきって帰ったことがあったが・・・あの時はバーボンとして帰ってきた。
今はバーボンという人が存在しないから。
安室透でないということは、降谷零であることに間違いないと思うのだけど。
さっきハロくんは、扉の向こうに零がいると気付いて尻尾を振っていたのだろうな。
そう思い返していると、彼の手から何かがポトッと音を立てて落ちて。
彼は落ちたことを気にする様子も無かったから。
代わりに私がそれを拾い上げた。
「・・・鍵?」
どうやらこの様子で鍵を開けようとしたから。
鍵穴に入らず、ドアノブと鍵が擦れた音を立てていたのだろう。
「れ、零・・・とりあえずスーツ脱いで」
一度荷物を取りに来ただけだとしても、この様子では仕事にならないだろう。
そう思いながら彼のスーツに手を掛けると、ゆっくり脱がし始めた。