第111章 きっと
「・・・・・・」
・・・会いたい。
そういえば、暫く零と会っていない。
最後に会ったのはいつだろう。
そんな事を考えながら机の上で腕を枕にし、目の前の道具を指先で転がしていると、突然スマホが振動を始めて。
きっと、零からの電話だ。
それ以外に掛かってくる人物もいないから。
『ひなたか?』
けど彼は、電話に出れば私かどうかを確認してくる。
恒例のそれにクスッと笑っては、そうだよ、と返事をして。
『どこにいる?』
「家にいるよ」
そして毎回、どこにいるかを尋ねて。
『鍵は?閉めているか?』
「閉めてるよ」
留守番を任せている子どもに聞くように。
そう続けて尋ねてくる。
それから。
『・・・すまないが、今日も遅くなりそうだ。先に休んでいてくれ』
「うん、分かった」
今日も会えないことを、律儀に伝えてくれる。
忙しいだろうから別に伝えなくても構わないと伝えても、彼は毎回こうして電話かメールをくれた。
『ひなた』
「ん?」
そして、最後に。
『愛している』
「・・・うん、私も」
いつもそう囁いて、電話を切る。
そうやって、会いたい気持ちだけを募らせていく。
「・・・・・・」
真っ暗になったスマホの画面を暫く見つめては、とてつもない喪失感を覚える。
苦しい。
会えないだけで、苦しいなんて。
1年も離れていた期間があったのに。
その時よりずっと、苦しい。
「・・・零」
ふと名前を呼んでは、虚しくなって。
また大きくため息を吐いた。
「あんっ」
「・・・大丈夫だよ」
それを見たハロくんが、私に擦り寄ってきては声を掛けてくれた。
彼が居てくれるから、寂しくはない。
・・・寂しくは、ないけれど。