第111章 きっと
「その紙切れ1枚で安心できるのなら、出せば良いじゃない」
「そういう訳には・・・」
出せるなら、もう既に出しているだろうな。
彼も、契約はできないが名乗ることはしても良いと言っていたから。
「でもそれは了承済みなんでしょ」
「・・・だから、寂しい訳でして」
彼が国を守る仕事をしていた、という事実がある以上、今後も難しいということは分かっているつもりだ。
降谷零に、身近な存在を作ってはいけないから。
その危険は公安であるその時だけではない。
彼が公安で無くなったとしても、いつだって危険は襲ってくる。
「贅沢な悩みね」
「・・・私も、そう思う」
諦めているつもりはない。
受け入れている、というのが正しいと思う。
どうしてそこまで安心感を求め、それを意識し始めたのか。
理由の無い不安だけが増えていって。
それは、自分でもよく分からないけど。
ー
その日の夕方。
数ヶ月前買い直した、元々は趣味の物だった道具の手入れをしながら、次は何を作ろうかと考えて。
これらを買ったあの日、零にメールを入れた際。
妙に焦った様子で、すぐに電話が掛かってきた。
どこに行くのか、何時に戻るのか。
それがただの心配から来るものだったというのは、彼が予定を大幅に切り上げ帰ってきた数時間後に、知ったのだけど。
その心配性は今でも変わらないが、少しは緩和されたようにも思う。
「・・・・・・」
探偵としても時々仕事を受ける彼に役に立とうと、色々開発してきたけれど。
イマイチ利便性と実用性が無くて。
それは博士のせいだと、志保さんと新一くんが茶化していたが。
「はぁ・・・」
大きなため息と共に、今日志保さんと話したことを、ふと思い出した。
・・・そもそもどうして、結婚の文字が出てきたのか。
ただ安心感を得るだけなら、他の方法だってあったはずだろうに。