第110章 キスで※
「これから、僕がいない所で飲むのは禁止だ」
「・・・はい」
それはそうだ。
以前、沖矢さんと飲んだ時に思い知ったはずだったのに。
思わず敬語で返事をしながら、ふと沖矢さんとの出来事が出てきたのは、久しぶりではない感覚を覚えた。
・・・そういえば。
その日のことを思い出していたような気もするが。
やはり記憶がハッキリしない。
無駄に考えを巡らせているうちに、眉間の皺は深くなって。
「・・・?」
それを見てなのかは分からないが、彼がクスクスと小さく笑うから。
「ひなたが眠る前に同じことを言ったんだが、その時は嫌だと言われた」
どうして笑うのかと小首を傾げると、それに気付いた彼が一呼吸置いてから、そう理由を話して。
相変わらず、飲めば私は面倒な物言いをしてしまうのだな、と思っている最中。
「僕が居なくても飲める、と」
彼は、そう言葉を続けた。
「・・・ごめん」
もう謝る以外できない。
そういう事ではないよね・・・と零せば、彼は再びクスッと笑って。
「でも」
頬から滑るように指を添わせると、頬を優しく手で包んで。
「やはり可愛いと思ってしまった」
「・・・!?」
耳を疑うような言葉を呟かれた時には、流石に聞き間違いではないかと感じて。
それを目で伝えれば、何故か彼は静かに眠るハロくんに目を向けた。
「多少手が掛かる方が、可愛く見えるのだろうな」
「・・・・・・」
それは、つまり。
つまり・・・そういう事なのか。
別にハロくんと一緒にされて怒る資格も、怒っている訳でもないが。
何だか複雑な気持ちに、口を尖らせてはホットミルクを胃に流し込んだ。
少し甘いそれに、蜂蜜が入っていることを察すると、細かい優しさに彼の上手さを感じた。
「・・・零は酔わないの?」
「ひなたになら酔う」
確か、彼の方がウィスキーを飲んでいたはずなのに。
そういう弱点も無いのか、と思うと同時に、誤魔化すような軽くあしらわれるような返答に、彼らしさも感じた。