第110章 キスで※
「・・・舌」
短い命令。
さっきのため息の意味も聞きたい所ではあるが、そんな事はできない現状でもあって。
顎を掴まれたことで、追い込まれた感覚は更に強くなった。
「ん・・・」
舌を出せ・・・ということなのだろうと、言われるがままおずおずと舌を出すと、彼はそれに吸い付くように口に含んだ。
「っ、ふ・・・ンん・・・」
搾り取られるように舌を吸われると、理性までも一緒に吸われているようで。
クラクラするような目眩に近い感覚の中、グッと彼の服を掴んだ。
「んく・・・っ、ぅ・・・」
キスを望んだのは私だけど。
流石にここまで深くて長いキスだと、苦しくなってくる。
相変わらず上手く空気を取り込めない自分に情けなさを感じながら、僅かに涙目で彼にそれを訴えると、パッと唇が離れて。
「・・・はぁ」
肩で呼吸をする私を少し見つめた後、今度は深く大きな、紛うこと無きため息を吐いた。
「れい・・・?」
呆れられたのだろうか。
嫌われたのだろうか。
そんな不安が募る中。
「怒る気にも、お仕置をする気にもなれないな」
彼は再び額に指を添えながら、そう言うから。
やはり、呆れられたのかと目を伏せて。
「・・・ごめん」
理由も分からず謝るのは良くないと思ったが。
とりあえず謝らなくては、と口にした瞬間。
「いや、違う」
彼は一変して、慌てた様子を私に見せた。
何が違うのか、と戸惑いの眼差しを向けると、彼は悪かったと一言謝罪の言葉を口にして。
「ひなたが可愛くて、そういう気が消えてしまうという意味だ」
そう、話を続けた。
あまりにも自分が想像していた理由とかけ離れ、拍子抜けしたせいもあるが。
大きな安堵から思わず、涙が滲んだ。
「・・・わ、悪かった」
流石の彼も、私の勝手な勘違いではあったが、すれ違いの会話に謝罪を繰り返しながら、私の頬を優しく撫でた。