第110章 キスで※
「どうした、か」
・・・その瞬間、フッと一瞬笑みを見せた彼だったけれど。
流石に察してしまった。
「相変わらず、酔うと覚えていないのか」
今の彼は、怒っている・・・と。
「・・・待っ・・・」
「待ったさ。一晩中な」
私の言葉を吐くことすら待ってはくれない。
でも今までの言葉から考えると、どうやら昨日酔ってしまい、その時に何かをやらかしてしまったようで。
「ひぁ、ぅ・・・!」
でもそれが何なのか思い出せないまま、彼は私の両手と彼の両手をそれぞれ繋ぎ合わせ、舌を首筋へと這わせていった。
「零・・・っ」
昨日、自分が何をしてしまったのか。
せめてその確認だけでもしたいのに。
寝起きで力は入らず、両手は塞がれ、彼の体が上にあるせいで身動きも取れず。
ただもぞもぞと、弱い抵抗しかできなかった。
「僕の我慢を、味わってもらおうか」
我慢・・・。
何の我慢なのだろう。
考えたくても、彼が微弱に与える快楽が、それを許さない。
「ン、ぅ・・・ンん・・・ッ」
首筋から胸元へと。
彼の唇と舌が徐々に移動していく、けれど。
「れい・・・っ」
体は無意識に、大きな快楽を求める。
が、彼はそれを意識的に避けていて。
「どうした」
意地悪そうな声と表情で胸元に舌を這わせ、そう返事をされた。
「・・・っ」
胸元を舐められ、キスを落とされているのに。
敏感な場所を確実に避けられている。
そんな状態で、体が疼かないはずがない。
「・・・ひなたが本当に嫌なら止めるが」
そんなことを言ってくるけれど。
彼は、私が嫌だと言えないことを分かっているはずだ。
それに、嫌だと思っていないことも。
私の無言は、その全てを言っているようなもので。
「許可は取ったということで良いな?」
「・・・っ」
でも、その勝ち誇ったような笑みに戸惑わない訳がなくて。
これから何が起こるのか、僅かに恐怖に似た感情を覚えた。