第109章 一から
「ただ、今日は酔い始めたひなたを見ることができた」
額に感じる冷たさに、そこへ彼の手があるのだと察すると反射的に目を閉じて。
「可愛い」
そう言われたように聞こえたけれど。
どうにも睡魔が強く、本当にそう言ったのかは分からなくて。
「・・・が、少々悩みの種もできたな」
このまま眠ってしまえれば気持ちが良い。
額にある冷たさもまた、それを呼び寄せるものになっていて。
「水を取ってくる」
あと少しで、再び意識を飛ばす。
そんな時、徐ろに離れた彼の手に、大きな喪失感を覚えた。
「まって・・・」
咄嗟に掴んだそれを引き寄せ頬に当てると、安心感と共に気持ち良さが戻ってくる。
「ここにいて・・・」
これが、良い。
このままが、良い。
彼の手に頬を擦り寄せるようにすると、冷たさが全体に回るようで。
ただ、意味の無いそれだけの行動だった。
「・・・僕もそこまで、我慢強くないんだがな」
結果、彼には我慢させていた事に気付くのは、次の日目が覚めてからで。
「ンっ、んぅ・・・ッ」
そんな事に頭の回っていない今の私の唇は、突然彼の唇で蓋をされてしまった。
「・・・っふ、ぁ・・・ンん・・・」
いつもと少し違う感覚に、溶かされそうで。
僅かな苦しさはあるけれど、これがお酒のせいなのか絡む舌のせいなのか。
でもその苦しささえ、何故か今は心地良いと感じてしまう。
「・・・大人しく寝てくれ」
だから、なのか。
これもまた、離れた時の喪失感が大きいのは。
「・・・!」
気づけば彼の腕を引いて、ベッドに転がっていた私の体は、彼の上に跨るように座っていた。
「ひなた・・・っ」
不意打ちだったからなのか、彼が油断しきっていたからなのか。
色々な理由で普段なら絶対にできない行動が、簡単にできてしまって。
「・・・・・・」
目を丸く見開きながら驚く彼を見下ろすと、途端に支配欲が芽生え始めた。