第109章 一から
「飲まないのか」
「ちょっと勿体なくて・・・」
カクテルグラスをまじまじと見つめながらそう返事をすると、彼はクスッと笑って。
「いくらでも作ってやるさ」
「いくらでもは飲めないけどね」
それに笑って返すと、ようやく口をつける決心をして。
少し口に含んで胃に流すと、ふわっと香るフルーティーな味が口に広がった。
「美味しい・・・!」
「それは良かった」
私の好みを熟知している彼だから。
好みの味を作ってくれたのだと思うけど。
この1杯は私にとって、かなりの特別さを感じた。
「これはネバダというカクテルなんだ」
「ネバダ?」
そういうことにも知識があるのか、と目を丸くしていると、もう1杯のカクテルを作りながら彼は言葉を続けた。
「・・・誓い、というカクテル言葉がついている」
「・・・・・・」
誓い、か。
そもそも、カクテルにも言葉がついていたなんて。
そんな数あるカクテルの中でこれを選び、作ってくれた。
「流石に重いか」
更に特別感を得ない訳がなくて。
「そんな事ないよ」
へらっと弱々しい笑顔を向けては、もう一口飲み込んで。
「ありがとう」
幸せ過ぎる時間を噛み締めた。
ーーー
「ひなた」
「ん・・・」
彼が優しく呼びかける声で、ふと目が覚めた。
・・・どうやら寝てしまっていたようだけど。
いつ、寝てしまったのだろう。
「ひなたがそこまで酒に弱いとはな」
・・・弱い?
私が、お酒に?
「弱くない・・・」
前にも誰かに・・・言われた気がする。
でもそれは、零ではなかったような。
「・・・あの時も、この程度で酔ったのか」
「?」
あの時。
それがさっき思った以前のことだろうか。
でもそれがいつのことだったかは、今の回転しない頭では思い出せなくて。