第109章 一から
「・・・ごめん」
「どうして謝る」
自分で決めたことなのに。
本当にそれで良かったのかと不安にもなる。
何とも面倒なこの性格は、一生直りそうもない。
「だって・・・」
ポアロに居れば、嫌でも私を思い出すだろう。
それでも彼はそこに居てくれて。
戻ってくるかもしれない、という思いを持ちながら。
「ポアロは僕が居たくて居た場所だ」
だから気にするな、と私の引っ掛かりをスルリと外して。
それだけで全て解けた訳ではないが、彼がそう言ってくれた上、自分で決めたことにこれ以上うじうじしていてはダメだと、奮い立たせた。
「何かしたい事を見つけたのか?」
したい、というよりは挑戦してみたいことかもしれないが。
それはアメリカに行くよりも、ずっと前から。
工藤くんに会って、諦めるなと言われたせいもあってか、隠されていた思いが出てきてしまった。
「・・・自分にしかできない事、してみたいなって」
以前までは趣味だったけれど。
少しでも、何かの役に立てるのなら、と。
そういう技術を、磨いてみたいと思った。
「ただ暫く触ってないから、少しずつ阿笠博士の所で勉強させてもらおうかと・・・」
博士には、さっき私が眠ってしまう前に電話して許可をとった。
その際、少し前から博士の助手をしているという人とも話をして。
彼女は1年前と変わらぬ大人びた雰囲気で、『生きていたのね?』と、笑みを含んだ声色で私に言ってみせた。
「その間は、バイトでもしようと思ってる」
ここでの生活費は、以前までも彼がほぼ全てを持っていた。
アメリカで働いていた頃の貯金もある為、当分は大丈夫だと思うが。
それでも、働かないという選択肢はよくないかと思って。
「だったら良いバイトがある」
「?」
そのバイトにポアロを選んでも良かったのだけど。
彼のその言葉に、まさか改めてポアロを進められるのか、なんて斜め上な考えをしてしまって。