第109章 一から
「君と話す度、彼には敵わないのだと毎回思い知らされる」
・・・そこまで言われると、流石に恥ずかしい。
その上、そう話す割には彼の表情は勝ち誇ったようにも見えて。
「だが、諦めるつもりは無い」
そんな事も、言われる始末で。
「アメリカでのチャンスは、こちらにもあるだろうからな」
実際、彼は後にアメリカでプロポーズもしてきた。
この頃には取引の話が出ていたが、本当にアメリカに向かうことになるとは、あまり思っていなくて。
思えばもう既に、この時の私はコナンくんと赤井さんの作戦の中で動いていたのかもしれない。
ーーー
「・・・・・・」
懐かしい、夢だった。
でもあまり良いとは言えない記憶。
そこから目を覚ますと、ゆっくり瞼が上がった。
ベッドにもたれ掛かるように寝ていたせいか、体が痛い。
それに、何か肌に・・・触れた感覚があった。
私の意識を呼び戻した切っ掛けは、恐らくそれで。
「・・・すまない、起こしたか?」
瞼が開き、一番に写ったのは。
「零・・・」
座ったまま眠り込んでしまった私に、布団を掛けようとする彼だった。
「おかえり」
現実、ということは分かってはいるけれど。
まだ夢の中にいるような不思議な感覚のまま、へにゃっとした笑顔で彼にそう言って。
「・・・ただいま」
それを見てなのか、彼は口元を拳で隠しながらクスッと笑いを漏らした。
「アンっ!」
「ハロも、ただいま」
行儀良くハロくんもお出迎えをすれば、無造作に零がその頭を撫で回した。
「遅くなったが、夕飯にしないか」
「うん」
食べずにいた事は、ダイニングテーブルにある料理を見れば誰でも察する。
勿論、食べていても問題は無かったのだが。
今日はこれを片付けたら、彼に話したいことがあったから。
・・・これからの、ことを。