第109章 一から
「君達は出会って日も浅い。何がそこまで君を焚き付けた?」
日が浅いのは赤井さんも同じだけど。
沖矢さんとして接する時間の方が長った事もあり、それは更に浅く感じていて。
後に同じことをキャメルさんにも問われるとは、この時は全く思わなかったが。
「・・・・・・」
でも、いざそう聞かれると。
具体的に、何・・・と答えられなくて。
彼だったから、としか言えなくて。
「・・・好きになったから、じゃダメなんですか」
「理由にならないな」
以前赤井さんにも、似たようなことを私も聞いた事があるが。
その時の彼には、そう言われた気がするのに。
何故私はダメなのか、と口を尖らせて。
「では逆に、赤井さんは私のどこが良かったんですか」
「聞きたいか?」
別に聞きたいと思って言ったことではないが、どこか楽しそうな笑みを向ける彼に、僅かにたじろいだ。
「・・・聞かせてくれるんですか」
どうにも、その余裕ぶったその笑みが癪で。
反発するように言い返した。
母が切っ掛けなだけで、私に向ける彼の感情は私が零に向ける感情とは、少し違うのでは、とこの時は思っていた。
けど。
「ああ、構わない」
彼は徐ろに立ち上がると、私の方までゆっくり歩いてきては目の前で立ち止まって。
かと思えば、私の逃げ場を無くすようにソファーへと手をつき、顎をクッと持ち上げられた。
「君がもういいと言うまで、聞かせてやる」
「・・・っ」
その瞳は、沖矢昴と変わらないはずなのに。
まるでさっきとは別人に見える。
それは変装がすごいのか、赤井さんがすごいのか・・・分からないけど。
「け、結構です・・・」
「遠慮しなくても良い」
遠慮ではない、と彼を軽く押して距離を取ると、乱れた心拍を落ち着かせるように深く呼吸をした。
やはりこの男には、色んな意味で敵わない。
会う度に、そう痛感させられる。