第109章 一から
「・・・・・・っ」
そうだと、確信していたのに。
いざそれを目の前にすれば、ゾクッと背中に冷たいものが走った。
「どこで気付いた」
化けの皮を剥がし終わると、襟の隙間から変声機を操作し、声を元々のものへと変えて。
彼はそれを無造作にソファーへと投げ捨て、その隣にドカッと身を投げるように座った。
私も座るようにジェスチャーで指示されると、言われた通り彼の向かい側のソファーへと腰掛けた。
「それはあの時話しましたよ。それに・・・赤井さんが、自分で吐いたようなものじゃないですか」
一度、私は沖矢昴に直接尋ねた事がある。
さっきのように、単刀直入に。
貴方が、赤井秀一なのではないか、と。
けれど彼は、ベルモットと由希子さんは友人だったのどうだのと、訳の分からない事を言って、その時の私を適当にあしらった。
「それで?安室くんに話すか?」
「・・・そんな事しませんよ」
証拠が無いだけで、確信はしているだろうけど。
「彼は自分で答えを見つけるはずですから」
だから、私から言うのは違う気がする。
「それもそうだ」
私の答えに、赤井さんも納得の言葉を吐いて。
それ以来、私は沖矢昴が赤井秀一だと言うことを知りつつも、零には知らないフリを続けた。
赤井さんとは変わらず協力者として接しつつも、段々とそれは取引をするという関係に変わっていって。
でもそれ以上は無い。
赤井さんからは寧ろ、前よりも言葉を選ばず色々と言うようになった気はするが。
「君は安室くんの、どこに惚れたんだ」
そんな彼にとある日、そう聞かれたことがある。
取引のことを一通り話し終え、そろそろ戻らなければという所でそんな事を言われ、思わず目を丸くした。
「・・・前にも、似たようなこと聞きませんでした?」
それも一度ではなかったような気もする。
そうだったか?と惚けたように答えながら、彼はマグカップに入ったコーヒーを流し込んだ。