第109章 一から
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その日の夜。
ハロくんと散歩に行って、夕飯の準備をして。
とある人へと電話をかけ、少しの話をして。
その後、お風呂を済ませた所までは覚えているけど。
いつの間にか、ハロくんと眠ってしまっていたようで。
その最中、夢を見た。
昼間、工藤くんに会ったからなのか。
あの人や、優作さんの話をしたからなのか。
「どうも、如月ひなたさん」
アメリカに向かうより、もっと前。
まだ、私が安室透という人しか知らなかった頃。
降谷零という人を知る切っ掛けになった、あの日の夢だった。
さっきの挨拶は、工藤優作氏と会った際、初めて言われた言葉。
・・・いや。
厳密には、あの時の彼は工藤優作氏ではなかった。
彼は、工藤優作に変装した、赤井さんだったのだから。
あの時、私は工藤優作氏が沖矢昴に変装してもバレないか、試されていた。
だから、初めまして・・・とは言われなかった。
初対面の工藤優作氏の印象を強く付けることで、沖矢さんに変装した優作さんの印象を弱めた、というのもあったらしいけれど。
後日、直接本人に確認してみたが、一度ははぐらかされて。
それも実に雑な、やり方で。
そんな事も、沖矢昴が赤井秀一だということも知らないまま時は流れた、とある日。
「・・・・・・」
私は、再び沖矢昴に尋ねた。
「赤井秀一さん、ですよね?」
至ってシンプルに、単刀直入に。
「・・・初めまして、と言うべきか?」
その質問に、沖矢昴の姿をした赤井さんはそう答えた。
「もう会ってるじゃないですか。何度も」
何なら・・・と付け足そうとすると、彼は徐ろに自身の人差し指を私の唇に押し当てた。
敢えて口にする事じゃない、とでも言うな笑みを向けられたと同時に、彼は空いている方の手を自身の首元へと伸ばすと、そこから何かを剥がし始めて。
ものの数秒後。
私の目の前で、沖矢昴は赤井秀一へと変貌していった。