第109章 一から
「如月さん、ポアロに戻るんですか?」
「・・・どうだろうね」
帰り際、工藤くんは玄関まで私を送りながら、最後の質問をしてきて。
彼は変なことばかり気になるのだなと思いつつも、探偵の探究心がそうさせるのだろうかと、どこかで納得させた。
「もう、奴らはいませんよ」
「そうだね」
正直な所、ポアロに戻るかどうかは迷っていた。
でも、私の中ではどうしたいか、というのは多分もう決まっていて。
「如月さん」
玄関のドアノブに手をかけると、工藤くんは一瞬だけ私を引き止めるような声で私を呼んだ。
「もう、諦めるのは辞めてくださいね」
「・・・・・・」
そして、高校生らしくない言葉を最後にかけて。
返事にならない笑みを返せば、少し不服そうな表情が返ってきたけど。
そのまま、工藤邸を後にした。
ーーー
「・・・ハロくん、大丈夫かな」
予定より少し遅れてしまったが、このまま走ればハロくんの散歩の時間までには帰ることができそうだ。
やはり少し体力をつけるべきだな、と痛感しつつ息を切らしながら家まで急いで。
数分と持たない体を知れば、零に怒られそうだ。
暫くは、ハロくんと一緒に走らなければ。
なんて思いながら、ようやく家に辿り着いて。
軽く息を整えながら急いで解錠し、玄関のドアを開けば、目の前にはハロくんが盛大に尻尾を振りながら待ち構えていた。
「アンっ!!」
「ごめんね、お散歩行こうか」
膝をかがめ、ハロくんの頭を優しく撫でながら話しかけて。
私がいない時は風見さんが面倒を見ていたと聞いたけど。
・・・犬、大丈夫なのだろうか。
想像では、苦手そうだけど。
公安ともあろう人が、その組織に組み込む犬に怯える訳が無いか、とハロくんにリードを付けながら脳裏で考えた。
・・・風見さんがハロくんと楽しそうに笑顔で遊ぶ姿を目撃してしまうのは、また少し先のことで。