第109章 一から
「如月さん、雰囲気変わりましたね」
「・・・そう?」
当たり前だが、私からすれば彼の方が変わっているけれど。
私が変わった自覚は無いが、1年も経っていればそれなりに変わるだろうとも思って。
「吹っ切れたようにも見えますけど、ある意味、諦めたようにも見えます」
紅茶の入ったカップを差し出しながら、工藤くんは私にそんな事を言った。
その言葉に僅かに、目を丸くして。
「諦め?」
「あくまでも、雰囲気ですよ」
何かを諦めた覚えはないけれど。
工藤くんから見て、そう感じたということは。
・・・零も、そうだったのだろうか。
だから彼をあんなにも、不安にさせたのか。
「そういえば・・・コナンくん、帰ったんだね」
工藤くんに言われた言葉を今は忘れるように話題を変えると、彼は紅茶を一口胃に流して私に視線を向けた。
「いますよ?ここに」
そう答えながら穏やかな笑顔を向ける彼に、少し動揺した。
コナンくんはコナンくんで、人の懐に入る武器を持っていたが、工藤くんは工藤くんでこういう武器があるのか。
こんな笑顔を自然に異性に向けるのだから、蘭さんは苦労するな。
「・・・・・・」
・・・いや、違う。
「工藤くん、もしかして蘭さんと付き合ってる?」
「ゴホッ・・・!!」
私の問いかけに、彼は紅茶を飲み損ねて。
咳き込む彼へ大丈夫かと声をかけると、真っ赤に染めた顔を私から逸らしながら、手の平を向けて大丈夫だと言われた。
「ど、どうしてそう思ったんですか・・・」
ああ、こういう所は変わらない。
それもそうだ。
江戸川コナンであった彼もまた、工藤新一だったのだから。
変わるはずがないか。
「秘密」
クスッと笑いながら紅茶に口をつければ、彼は子どもらしいムスッとした表情をして。
さっきの落ち着いた、穏やか過ぎる笑み。
まるで誰かを思い出しているようなその笑みに、こちらまでその誰かが見えた気がした。
愛おしさが滲むそれで、間違いなく蘭さんだと察したと同時に、以前までより近い距離を感じたから。
だから何となく、そう思っただけで。