第109章 一から
「・・・どうしたの?」
様子がおかしいのもそうだけど。
「分からない・・・」
段々と、彼が遠のいていくようで怖くなる。
体はこんなにも密着しているのに、心が遠い気がして。
寂しさばかりが・・・募る。
「ただ、ひなたが・・・また遠くに行くんじゃないかと、不安になるんだ」
僅かだが、自分の気持ちを吐露した彼の言葉に、似たような気持ちだったのかと感じて。
「僕に何も言わないまま・・・居なくなるんじゃないかと」
私を抱きしめる彼の腕に手を伸ばすと、どこにも行かない、と返事をするようにそれを握った。
・・・以前も同じことを言われた気がする。
同時に、彼にとって私は強みにも弱みにもなるという事も、思い出した。
「それが・・・言いたかったこと?」
「・・・いや、違う」
違うのは分かっていた。
彼がこう感じているのは、私がアメリカに行く前からそうだったから。
「聞いてもいい?」
でも彼が言いたかった事に、やはり検討はつかなくて。
彼が言いたいことを言ってほしいと言ったからではないが。
言いたかった先を、思い切って尋ねた。
「・・・・・・」
私の背中で一呼吸置いた彼は、また腕の力を強めて。
そのまま後ろを向かないでほしいと言われているような気になりながら、視線を落としたまま彼を待った。
「・・・い、に・・・」
「・・・?」
ようやく発した言葉は、聞き取れないほどか細く、小さな声で。
絞り出すというよりは、迷いの中で何かと葛藤しながら発しているように聞こえた。
互いに、聞こえなかったことは分かっていた。
故に彼はもう一度呼吸を整え、私は軽く首を後ろに向けながら、再び言葉を待った。
・・・が。
「離れている間、赤井に手は出されていないか」
「!」
意を決した声色で聞いてきたことに、思わず目を丸くした。
この期に及んで、彼の中にそういう引っ掛かりが、まだ残っていたとは思わなくて。