第109章 一から
「・・・・・・」
しかし彼から何かを言われることは、数分の間には無かった。
ただ静かな時間が流れ、ハロくんの寝息だけが聞こえてきて。
「・・・れ、零?」
私が切り出すべきではないと思ったけど。
この静かな時間に耐え切れなくなって。
結果、急かすように名前を呼んでしまった。
「・・・っ」
それに応えるように、彼は口を開いて何かを言いかけたが、ただ言葉を詰まらせただけで。
「いや・・・やっぱり、忘れてくれ」
何も、言ってはくれなかった。
「・・・・・・」
正直、納得はできなかったけれど。
納得しないという選択肢がそもそも無い。
「・・・分かった」
本当は気になるけれど、問い詰める資格もない。
言葉だけは納得のそれを吐くと、心のざわつきが伝わったのか、ピクッと小さく体を震わせたハロくんが、膝から降りて寝床へと帰ってしまった。
温かかったそこが段々と冷えていく感覚は、心も同じような形をしていて。
「・・・寝よっか」
なるべく気にしないフリをしながら、布団へと潜りかけた瞬間。
「・・・!」
背中に受けた温もりと、軽い衝撃。
目の前に彼の腕が巻きついているのを目視しながら、背後から抱きつかれていることを肌で感じた。
「・・・聞かないのか」
短く、そう問われながら、腕の力を強められて。
そう聞くということは。
「聞いてほしかったの・・・?」
そういう事なのかと思ったが。
「・・・そうだが、そうでは無い」
彼にはそんな、曖昧な返事をされてしまった。
少し意味が分からず、言われた言葉を何度か脳内で再生してみたけれど。
やっぱり分からなくて。
そんな疑問符ばかりを浮かべる私に、彼は。
「ひなたが言いたいことを、正直に言ってほしいだけだ」
納得できるような、やはりできないような。
そんな言葉を口にした。
「・・・言ってるつもりだよ?」
さっきの彼の言いたかったことが気にならないと言えば嘘になるが、彼が言いたくないのであれば、それを尊重したい気持ちも嘘ではないから。