第17章 侵入者
その日はいつの間にか、スマホを握りしめたまま眠っていて。置いてあった目覚まし時計で、目を覚ました。
「・・・ん・・・っ」
いつものように働かない頭と体を無理に動かし、寝ぼけ眼でスマホに電源を入れた。なるべく電源は切った方が良いと思い、昨日あの後に電源だけ落としておいた。
電源が入るとメールの着信があって。
胸が締め付けられるように、一瞬で苦しくなった。きっとこれは・・・、とある人を想像しながらメールボックスを開く。
でもそこには思っていた人とは違う人物の名前が書いてあった。
「コナンくん・・・」
メールを受信したのは、ほんの五分程前。慌ててメールを開いてみると。
『昨日はごめんね。あの後、昴さんに任せたけど大丈夫だった?』
あんな小さな子に気を使わせてしまっている。そんな自分に、申し訳無さからくる笑いが込み上げて。
『大丈夫、ありがとう。沖矢さんに言われて、暫く有希子さんのお家にお邪魔することになりました。また、顔見せてね』
複雑な気持ちのまま、彼にそう返信した。
そのすぐ後、アドレス帳から梓さんの名前を探し出し、電話をかけた。朝早い時間ではあったが、数回のコールで梓さんは電話を取って。
そして彼女に、暫くの間ポアロをお休みしたいことを伝えた。
本当は辞めると言うべきなんだろうけど。それはどうにも言えなくて。
長期休暇を伝えた直後、梓さんは残念そうにしながらマスターに伝えておくと言ってくれて。
何度も何度も謝って、電話を切った。
これで暫く、私は籠の中の鳥となる。
沖矢さんの準備、というものが終わるまでは。
連絡をし終わり、朝ごはんくらいは準備させてもらおうと思い立って。有希子さんが用意してくれた服に着替えて部屋を出る。
その直後に感じる良い匂い。
どうやら出遅れてしまったようだ、と思いながら台所を覗くと、そこにはエプロン姿の沖矢さんがいて。
「おや、早いですね。おはようございます」
「お・・・おはようございます」
何だか変な気分だ。
まるで二人で暮らしているような。
実際、状況はその通りなのだが。