第16章 話合い
「彼を組織から抜けさせることは難しいかもしれませんが、何故彼が組織にいるのか・・・その理由はもしかすると分かるかもしれませんよ」
「・・・っ!」
それはさっき、はぐらかされてしまった質問で。つまり、今は何故透さんが組織にいるか分からないということ。
「どうしたら分かりますか・・・っ」
沖矢さんに詰め寄って問いかけた。
少しでも希望があるなら。
それにかけたいと思った。
「それを確かめるには、少々準備が必要ですね」
そう言ってソファーから立ち上がり、私の肩を掴んだと思ったら体を反転させられて。
「お、沖矢さん・・・?」
そのまま背中を軽く押され、扉の方へ誘導された。
「とにかく今日は休んでください。部屋まで案内しますから」
またはぐらかされるのだろうか。
・・・いや、ここまで沖矢さんから言っておいてそれは多分ない。言葉通り準備が必要なんだと思って、今は黙ることにした。
少し家の中を進んで行き、沖矢さんが一つの扉を開けた。そこはゲストルームらしく、ベッドや必要最低限の家具が置いてあった。
「暫くの間はこの部屋を使ってください。間違っても、許可なく家から出ようなんてことは思わないでくださいね」
念を押されてしまった。隙があれば事務所に行ってみようと思っていたことはバレているのかもしれない。
そんな彼の表情が気になって、ふと視線を向けた。その顔には不敵な笑みが戻っていて。
「では、僕はこれで」
「あ・・・お、おやすみなさい・・・っ」
沖矢さんの去り際に慌てて就寝の挨拶を告げると、一瞬足を止め小さく振り向いて。
「ええ、おやすみなさい」
穏やかな声でそう返された。
一瞬胸が高鳴ったように感じたのは気の所為だと言い聞かせて。
その後、部屋に入りベッドへ腰掛けた。自宅や事務所にあるのとは違う大きなベッド。思っていたより沈み込むそれに、何だか宙に浮く気分になった。
暫く窓の外から漏れてくる月明かりを眺めて、スマホを手にした。
何度も何度も、透さんからのメールを確認して。
会いたい。
こんな状況でもそう思ってしまうのだから、本気で彼に惚れてしまったんだな、と改めて自覚する。
このまま彼と会うことがなくなっても・・・きっと一生忘れられない人なんだ。