第108章 零まで※
「・・・こっちの台詞だ」
私の質問に彼はそう答えて。
どういう意味だろうかと一瞬考えてしまったが、今まさに繋がっている部分のことか、とすぐに察した。
でも彼の心配に反して、そんなことは大して気にならなかった。
そんな事を感じる暇がないくらい、別の感情を感じていたから。
「それに、ひなたがいなかった時間の痛みに比べれば、これくらいどうってことない」
私が心配した彼の傷のことも、似たようなものだったようで。
でも彼が言うよりも、私が作ってしまった彼の肩の傷は生々しく、殆ど無意識だったとはいえ、やはり痛そうだと眺めては眉間に皺を寄せた。
「ッ・・・」
その瞬間、彼から漏れた吐息で再び察した。
今、彼をナカで、締め付けた・・・と。
「・・・ひなた」
「わ、わざとじゃない・・・っ」
その苦しさや快楽はどういうものか、私には一生分からないけれど。
彼の表情からそれは、相当なものなんだと、毎回思わされる。
少し低い声で名前を口にされると、慌てて両手を振って弁解した。
「・・・分かっているさ」
呼吸を落ち着ける為か、少し時間を置いた後、彼は息を吐きながらそう言うと、私の目を真っ直ぐ見て。
「寧ろわざとなら・・・」
それ以上は、口にしない。
ただ彼が私に送ったのは、不敵な笑みだけで。
「・・・っや、あぁ・・・!!」
その笑みが意味することを考えた次の瞬間には、彼の腰が再び動き、先程よりも大きな粘着質な音を立てながら、肌がぶつかり合った。
「ん、ン・・・っあ、ぁあ・・・ッ!」
彼に抱きついていると、また傷を増やしてしまいそうで。
今度は別のものを掴んでいれば良いのだと考えると、顔の横辺りのシーツや枕を掴むと、手に目一杯の力を込めた。
「れ、い・・・」
その瞬間、感じたのは肩への冷たさ。
触れたのが彼の手だということは分かったけれど。
何に触れたのか分かったのは、その十数秒後だった。