第108章 零まで※
「零・・・っ」
また、あの感覚だ。
ジワジワと、ゆっくり近付いてくる。
絶頂とは上がっていくものだと思っていたけど。
彼と交わる度、快楽やそれは落ちていくものなんだと思うようになった。
沈んで、堕ちて、上がることは無い。
ただただ、存在しない底へと落ちていく。
だからだろうか。
同時に、怖いと思うようになっていったのは。
「あっ、ぁあ・・・や・・・!!」
久しぶりだからか、尚更そう感じる。
きっと以前までも、何となく感じていたのだろうけど。
漠然とした感情にここまで恐怖を覚えられるのも、中々滑稽のように思えるが。
「ぃ・・・零・・・っ」
か細く、求めるようにも拒むようにも取れる声で呼べば、私を抱きしめる腕の力が強くなったような気がした。
「・・・ッ・・・」
彼から漏れる吐息が、耳へと掛かって。
また、落ちるスピードが上がっていく。
「ン、ぅ・・・ん・・・っ」
私がどう感じて、どう思っているのか。
何を考え、いつ達するのか。
全て彼には見えているように、行動を起こし、言葉を発する。
このキスもきっと、私の声を抑える為のもので。
「ンんっ、んぅ・・・ふ・・・!!」
逆に言えば、彼の手の平の上で転がされているのかもしれないが。
「・・・ッ、んん、んぅう・・・ッ!!」
そんな事を考えている内に、再び快楽へと溺れ、深く深くへと落ちてしまった。
ビクビクと体は痙攣するように跳ね、いつの間にか腕は彼の脇腹を通って肩を掴み、そこにくっきりと爪の痕を残していた。
「っ、・・・痛、く・・・ない・・・?」
達した後も、暫くキスは続いたまま。
体が少しずつ脱力していった頃、それはゆっくりと離れていって。
それと同時に、意識もほんの僅かだけれど、元に戻る。
そのぼんやりとする意識の中で、私が作ってしまった彼の肩の傷に触れながら、ぼそっと尋ねた。