第16章 話合い
「・・・私を探しているようです」
「でしょうね」
「返事を・・・した方が良いのでしょうか」
隠してもどうせバレるのなら、とメールの内容は正直に伝えた。
そして思わず沖矢さんに相談してしまって。ここにいる以上、彼に迷惑がかかることが嫌なのは変わっていないから。
「しない方が良いでしょうね」
「ですよね・・・」
本当は聞かなくても分かってたのに。つい、淡い期待を抱いてしまった自分がいて。
「それと、あの喫茶店での仕事は辞められた方が懸命かと」
言われて初めて気が付いた。外に暫く出るなと言われているのに、普通に明日から出勤するつもりでいた。
明日は梓さんと二人の予定。でも明日ポアロに行けば、透さんがいることはほぼ確定的だ。
それでもポアロを辞めるという選択はしたくなくて。
「・・・暫くお休みという形ではダメでしょうか」
そう提案すると、沖矢さんの目付きが変わったようで。心臓が体の中で大きく音を立てた。
「貴女は組織がどんなに危険なものか分かっていないようですね」
それを教えてくれないのは貴方だけど、と言い返せない言葉を心の中で吐き捨てた。
「貴女の今回の目的は、安室透が組織の人間かどうか調べること。それを達成したのだから、もう手を引くのがベストだと思いますが」
沖矢さんの言う通りだ。
分かっているつもりでも、脳が理解しようとしない。
「それでも、あそこは私の大事な場所なんです」
また泣きそうになりながら、手に力を込めて声を絞り出した。
ポアロどころか、この地を離れた方が良いことも分かっていたけど。それは私の中の最終手段。
今の私の思いを告げた後、暫くお互い見つめ合って。その間、沖矢さんの顔に笑顔はなかった。
「・・・今後、貴方がどうしたいのか教えてください」
メガネを押し上げながらそう聞かれる。
どうしたいのか。
そんなことは最初から変わっていない。
「私はまだ兄の死の真相を知りません。それを知るまではここから手を引くことは致しかねます。そしてあわよくば・・・透さんを、組織から抜け出させたいです」
無理だとは分かっているけど。
「無茶を言いますね」
「・・・ただの希望を伝えたまでです」
そう、あくまでもこれは私の身勝手な望みだ。