第108章 零まで※
「・・・ご迷惑を、お掛けしました」
「とんでもない。事情は聞きましたから」
それでも、許されるような行為ではない。
仕組まれたものだったとしても、公安としては大きな失態だったのだろうから。
それに大きな心の傷まで残してしまった。
「こちらも、理解はしています」
・・・理解は、か。
「ありがとうございます」
償いと呼べるようなことはできないだろうけど。
風見さんから言われた事を、今後守ることはできそうだから。
その後は静かに俯いたまま、懐かしいあの家に帰るまで待った。
ー
「・・・懐かしい」
零のセーフハウス、と呼ぶべきなのだろうか。
きっとまだ安室透としているのだろうから、そうなのだろうけど。
「おかえり」
玄関前で立ち止まり、まだそこに居たのだなと思いながら暫く眺めていると、鍵を開けては彼がそう声を掛けてくれた。
「・・・ただいま」
どこかくすぐったい感覚を覚えながら返事をすると、彼はその扉をゆっくり開いて。
「アンっ!」
「!」
その瞬間、ピクッと肩を震わせながら驚いた。
それは突然の声もそうだったのだけど。
「アン、アンッ!!」
一番驚いたのは。
「この子・・・」
その子が見知った子だったからで。
「そうか、そういえばひなたも一度会っていたな」
以前彼とトレーニングに出掛けた際、手当てをした子だ。
その後に聞いた話では、結局あれから何度もこの子に遭遇していたそうだ。
わざと怪我をしては零の前に現れる為、結局彼が折れることになったと言っていた。
「アンッ!」
「覚えててくれたんだね」
零ではなく、私の姿を見るなりこちらへ走って来たその子を抱き抱えると、零は軽く口を尖らせその子へ顔を近づけた。
「ご主人様に挨拶が先じゃないのか?」
「アン!」
怒られているはずだが、どうやらこの子はそう思ってはいないらしい。
込み上げた笑いを小さく零すと、呆れたように零は小さくため息を吐いた。
あの日、最後にここを出た時と殆ど変わらない部屋を見回しながら、懐かしい匂いに包まれて。
唯一変わったのは、この子のであろう物が少しだけ増えていることか。
そんな事を脳裏で考えながら、彼に促され部屋の中へと上がって。