第108章 零まで※
「FBIがいなければ・・・」
「零が諦めなかったからでしょ」
時々、彼はこういう風に後ろ向きな言葉を吐く。
でもそれは大体、私に関する事だ。
だから私は、彼にとって弱みにもなるのだけど。
「・・・探してくれて、ありがとう」
彼が諦めなかったから。
「ずっと、好きでいてくれてありがとう」
こうして、また会えたのだろうから。
「・・・僕の台詞だ」
笑いたくても、今は笑えない。
そんな表情を向けられて。
「僕を愛してくれて、ありがとう・・・」
震える声で、私を強く抱きしめながら。
そう言われた。
「こちらこそ」
抱きしめられたから彼の顔は見えなくなったけど。
彼の声と肩が震えているのを感じれば、見られたくない表情をしているのだなと、察した。
その背中を優しく撫でながら、彼が落ち着くのを静かに待って。
互いがそこにいる事を確認するように、強く抱きしめ合った。
ーーー
3日後。
私達は日本へと戻ってきた。
空港では、珍しく私服姿の風見さんが私達を迎えに来てくれていて。
見た目は全く変わってないことに、どこか安心感を覚えた。
「・・・如月さん・・・ッ!」
「風見さん、お久しぶりです」
メガネの奥に潤んだ瞳を見せる彼に笑いかければ、突然ボロボロと涙を零し始めて。
オフの彼は以前からこうだったのだろうか。
「だ、大丈夫ですか・・・」
「すみませ・・・っ、本当に、無事だったんですね・・・っ」
初めて見る風見さんの姿にオロオロとしていると、零が彼の肩を優しく叩いて。
私に優しい目を向けながらため息のように息を吐くと、困ったように笑った。
「行くぞ、風見」
「は、はい・・・っ」
ここでは話もできない、と車の方へと連れて行けば、風見さんにも迷惑と心配を掛けてしまったなと改めて感じた。
・・・零を突き放すだけのつもりだったのに。
結局、突き放したのは彼だけでは無かった。
風見さんの車に乗り込むと、彼はぐちゃぐちゃになった顔を無造作に拭いて。
「本当に無事だったとは・・・」
落ち着きを取り戻した頃、風見さんは後部座席に乗る私に目を向けて存在を今一度確認すると、そう呟くように言った。