第108章 零まで※
それから暫く、2人で海を見つめて。
見つめている間に、思い出したことが1つ。
そういえば・・・と、彼に私のお墓のことを尋ねてみたが、そんなものは作った覚えが無いと言われた。
確かに私がいなくなった日付の時に、兄のお墓へは行っていたそうだが。
赤井さんが勘違いしていたとは思えないから・・・私に嘘を言っていたのだろうけど。
一体何の為に。
・・・なんて事は、今更聞けない。
その答えが出ないまま。
「体が冷えるといけない。そろそろ戻ろう」
そう声を掛けられ、私達は部屋へと戻って。
潮風に当たった上、海にまで入ってしまったから。
シャワー室まで連れて行かれると、早く浴びるように背中を押されたが。
「れ、零が先に・・・っ」
「ひなたの方が濡れているだろう」
それはそこまで変わらないと思うけど。
でも私のせいで、濡れてしまった彼を置いて先に行くのは、どうにも気が引けて。
「・・・じゃあ、零も一緒に・・・入ろ」
だからそんな事を言ってみてしまったけど。
口にした瞬間、顔が一気に熱くなり、真っ赤になっていくのが自分でも分かった。
「ご、ごめ・・・っ、やっぱり零が先、に・・・!」
慌てて訂正してみせるけど。
もう、口から出してしまっては遅い。
彼もそう言うように、私を壁に追いやると、少し荒っぽいキスをしてきて。
「んッ、んぅ・・・!」
くぐもった声が、部屋に響く。
物が無いせいで、それは余計に。
「れ・・・っ」
空気を取り込み、彼の名前を呼んで一度静止をかけようとした時。
彼の舌が口内に滑り込んできて。
ゾクッとした感覚と共に、背中側から冷たい感触を受けた。
それが彼の指の冷たさだということは、久しぶりの感覚ではあったが、すぐに分かった。
「ん・・・ッ」
彼の服をキュッと掴み、自然と背筋を反らせ。
僅かに甘くなった声を彼の口内に零すと、背中に這わされていた手が、何故かピクリと震えて止まった。
「・・・零?」
全ての動きが一旦止まると、彼はゆっくりと私から体を離して。
戸惑いながら、少し荒くなった呼吸を繰り返す中で名前を呼ぶと、彼は俯いたまま体を小刻みに震わせた。