第108章 零まで※
とりあえずそこで落ち着こうと、波打ち際から少し離れた所に2人で腰掛けて。
それから言葉を交わさぬまま数分間。
私から何か言えば、また彼を不安にさせるかもしれないから。
今は静かに、彼の言葉を待った。
「・・・僕の傍が嫌なら言ってくれ」
でもどうやら、その沈黙も彼を不安にさせてしまっていたようだ。
「・・・・・・」
何をやっても裏目に出てしまうなと、ここまで来れば逆に笑えてきてしまう。
「何度でも挑戦するとは言ったが、ひなたの迷惑になるようなことはしたくない」
・・・私が彼に1日欲しいと言ったところから、間違っていたのかもしれない。
あれはただ、本当に時間が欲しかっただけなのに。
「だからもしひなたが・・・っ」
でも言葉では、伝わりそうもないし、伝えられそうにもない。
それなら。
「・・・!」
行動で示すしかない。
らしくも無く俯いている彼の胸ぐらを掴むと、勢いよく自分の方へと引き寄せて。
何も言わさない、と言うようにキスをした。
「・・・嫌だなんて、言ってない」
ハッキリ言えなかった私も悪かったけど。
「この場所も好きだったから。お別れを言いに来たつもり」
ここを離れるのが少し寂しくなったというのも嘘ではない。
それに、赤井さんとの会話を彼にも聞かれたくなかったから。
でも、全てに方をつけてから、彼に返事をしたかった。
「私を、零の傍に置いてくれる?」
もう、やり残したことはない。
本当は明日彼が起きてから言うつもりだったけど。
少し早まっただけだ。
「・・・本当に良いのか」
彼の目がキラキラと輝いているのは、海と月のせいだろうか。
「こっちの台詞だよ」
・・・いや、そういう事にしておこう。
やっと自分の気持ちに整理がつけられたと思うと、安堵から笑みが零れて。
ようやく、心から笑えた気がする。
それを見た彼も、以前と変わらない笑顔を見せて。
再び、今度はどちらからとも言えないキスをした。