第108章 零まで※
「沖矢さんは・・・どうされてるんですか?」
赤井さんが姿を隠す必要も無い。
だとすれば、確かに存在したあの人は、もう。
『ご希望なら、電話になら出すが』
「・・・いえ、大丈夫です」
意外にも、沖矢さんは沖矢さんとして頼りにしていた。
それは赤井さんとしてではなく、沖矢昴としてだったように思う。
勿論、中身が赤井さんだと知っていたからこそなのだとは思うが。
「・・・もう、会えないんですか」
だから、少し。
『寂しくなったのか?』
寂しくなった。
それは嘘ではないけれど。
「まさか」
本人に言われれば、否定してしまう。
こんな気持ち、このまま海に流してしまえば良い。
「会えないのなら、さよならだけを言っておこうかと思っただけですよ」
結局、零が沖矢昴の正体を知ったのかどうかは知らない。
けどもう、全て終わったことだから。
『・・・君が必要とすれば、いつでも出向く』
それは沖矢昴としてだろうか。
それとも。
『だが君には、彼がいるだろう』
なんて考えが必要無いことは、赤井さんも十二分に感じているようで。
こんな話をしてしまったことに、今更罪悪感を覚えた。
「そうですね」
無神経だとは思ったが、それでもお礼だけは言っておきたかった。
『また何かあれば言ってくるといい。できれば、惚気以外でな』
「善処します」
赤井さんの気持ちはきちんと受け止めた。
でも彼の気持ちに応えることはできない。
それを分かった上で、赤井さんは変わらず接してくれた。
「・・・赤井さん」
それがどんなに凄いことだったのか。
私には絶対に無理だ。
「本当に・・・ありがとうございました」
『ああ』
その優しさに、また泣いてしまいそうになって。
赤井さんと話すのはこれで最後かもしれない。
でもまた、どこかで会えるような気もする。
その時は零も一緒に、隣で笑えているだろうか。