第108章 零まで※
その日の夜。
彼が寝ていることを確認し、そっと部屋から出た。
疲れていたのか、あまり見ることのできなかった寝顔を、彼は簡単に晒していて。
無防備な彼の姿は珍しいと、少しの間眺めては音を立てないように静かに外へと出て。
夜でも、それなりに暑くなってきた。
ここにやってきた頃より少し時期が過ぎたのだなと思うと、何だか不思議な気になって。
まるでこの1年、ぽっかりと穴が空いていたような。
そんな気がする。
夜には人通りが殆ど無い。
だから赤井さんには出るなと念を押されていた。
でも、もう・・・良いだろう。
そう思い、とぼとぼと夜の海へと足を向けた。
「・・・・・・」
波の音が心地よい。
何度来ても、懐かしい気がする。
だから何度でも、足を運んでしまうのだろうけど。
その大事な場所で、やり残した事がある。
それを遂行する為、唯一部屋から持ってきた物をポケットから取り出して。
大きく深呼吸をしてから、ポケットから取り出したスマホに、とある電話番号を打ち込んで。
勢いのまま、電話を掛けた。
『どうした』
数コールの後、彼・・・赤井秀一は電話に出て。
番号を変えてはいないだろうとは思っていたけど。
こんなにも早く電話に出るとは、思わなかった。
「・・・いえ、大したことではないんですけど」
今日会っていたのに。
何故か酷く久しぶりな気がする。
・・・電話越しだからだろうか。
「ありがとうございました」
意外と、すんなりお礼が言えた。
『彼とは上手くいったようだな』
そう赤井さんに言わせてしまうのは、かなり酷なことなのかもしれない。
それでも彼はそんな事を感じさせない声色で、そう言ってきて。
「どうでしょう」
でもそれには、やはり誤魔化すような言葉で返してしまった。
「コナンくん、帰ったようですね」
『ああ、彼が元いるべき場所へな』
確認のように聞いてみると、赤井さんはそう教えてくれた。
やはり解毒剤は完成して、工藤新一として生きているようだ。
そうなれば、1つ気になる事もあって。