第108章 零まで※
「・・・そうか」
不服そうだ。
明らかなそれを、彼の表情から読み取れる。
でもこれは流石に、あの怪盗さんに悪いから。
心苦しくはあるが言う訳にはいかない。
「FBIにも、仮死状態のことは内密にしていたんだな?」
聞けないのなら次だ、と言わんばかりに早く話題を変えられて。
本当に大方しか話を聞いていないことを察しながら、彼の問いに小さく頷いた。
「ジョディさんにはある程度話してたけどね。キャメルさんには全然知らされなかったみたい」
「・・・だろうな」
私が出した答えに、彼は納得の言葉を口にした。
もしかして、それが理由でバレたのだろうか。
FBIの周りを嗅ぎ回っている、と赤井さんも言っていたから。
「あの後、彼はよくポアロに顔を出したが、来る度辛気臭い顔をするものだから」
・・・彼?
彼とは、キャメルさんのことだろうか。
キャメルさんが・・・零のいる、ポアロに?
「最初は嫌がらせかと思ったが、本当にお節介なだけの男だと分かったよ」
お節介、ということは。
零に会いに行っては彼を気にしてくれたということか。
「・・・・・・」
ずっと、キャメルさんには悪いと思っていたが。
この話を聞けば更に申し訳なくなった。
もう隠す必要も無くなったのだから、ジョディさんや赤井さんから話を聞いていれば良いけど。
「・・・そういえば、ポアロ続けてたんだね」
てっきり、もう辞めたかと思っていた。
組織の一件が片付いたのなら尚更。
彼があそこに居る理由はもう無いはずだから。
「辞めるものか」
言い返すような口調で言われ、その理由が気になって。
横目で問えば、握られていた手に彼の指が絡んで。
「ひなたが、帰ってくるかもしれないだろ」
私がそこにいる理由を作ってしまっていたのだと思うと、嬉しくもあり辛くもあった。
「目の前で、いなくなったのに?」
そういう事を避ける為に、そうしたのに。
結局彼は、避けてほしい部分を全て通った。
「遺体が無いのに信じろという方が無理だ」
見せるだけでは不十分だったか、と短くため息を吐くと同時に、彼らしいとも思った。
きっと赤井さんは、最初から零にこう思わせる為に、遺体の偽装などをしなかったのだろう。
赤井さんも赤井さんらしい。
やはり2人は似た者同士なのだと、小さく笑った。