第108章 零まで※
「・・・仮死状態の薬なんて、無茶をする」
話を変えられつつも、戻せない話題を引き出す。
これは意図していない、自然な彼のテクニックなのだろうか。
「・・・ごめん」
それについては、私からは何も言えない。
提案してきたのはFBIだとはいえ、そういう方法でも構わないと言ったのは私だからだ。
「あの時、僕もそうだと信じていた。きっと薬か何かなのだと。でもまさか血液まで準備しているとはな」
・・・それも赤井さんから聞いたのだろうか。
それとも。
「鑑定でもしたの?」
赤井さんやコナンくんの予想では、彼ならそこまですると言っていた。
私は演出上必要かとは思ったが、その時は血糊でも使うのだと思っていて。
彼らから、私の血液を使う為、定期的に採取すると言われた時は流石に冗談かと思った。
でも、結果は。
「勿論」
「ほ、ほんとに・・・?」
彼らの考えが正しかったようだ。
「僕の手袋についた血液や、ボートでひなたから出た血液、家にあった毛髪など、手に入るもの全てで行った」
流石公安、というべきか。
ただそれは賞賛の言葉だけでは済ませられないが。
ここまでくると、恐怖さえ感じる。
「でも結果は全て一致だった」
・・・あれがもし血糊だったら。
彼にはもっと早くバレていたということか。
これを聞いた時、私よりも赤井さんやコナンくん達の方がそこを読めていたことに、僅かに嫉妬した。
「・・・一つ、教えてくれないか」
これは赤井の口から聞けなかった、と前置きされれば、こちらもどこか身構えて。
何か、と問えば彼は一段と険しい表情をして私の手を強く握った。
「最後に僕の手からひなたを奪った、協力者を」
・・・ああ、彼のことか。
確かに、赤井さんの口からは言えないだろうな。
だって。
「・・・ごめん、それだけは言えない」
私の口からも、言えないのだから。
「秘密っていう約束なの」
それはあの作戦を行う時に、コナンくんから提案された。
何故か赤井さんにも喧嘩を売ってしまったから、協力してくれるはずだと言って。
彼にメリットを感じなかった為、本当に協力してくれるとは思わなかったが。
・・・その彼がどこかの怪盗さんだということは、彼の条件により、残念ながら私たちだけの秘密だ。