第107章 零から
「いや、それは僕の方が上だな」
何故そこで張り合うのか。
そう言いたい気持ちを視線に乗せて彼を見上げた瞬間。
「・・・っ!」
顔を引き寄せられ、彼と唇が重なった。
その時にようやく、彼のさっきの言葉は仕組まれた物だと察した。
私が、彼の目を見るように。
ただ、まだ気持ちの準備ができていなかったせいか、目を見開いたまま体は固まってしまって。
「・・・すまない、我慢できなかった」
そう謝る彼に、唖然とした間抜けな顔を晒してしまった。
「・・・・・・」
暫くそのまま、瞬きをすることしかできなくて。
「どうした・・・?」
零が覗き込むように見せた不安そうな表情で、ようやく少し我に返った。
いけなかったか?と問う彼に、その表情のまま首を振ったが、説得力の欠けらも無い。
そんなことは分かっているけど。
「ごめ・・・」
今、別の表情をしたり無理に言葉を出せば。
・・・泣いてしまいそうだったから。
「・・・・・・」
そんな私を、彼は黙って見つめていたかと思うと。
「・・・っ、わ・・・!?」
突然抱きかかえ、隣の部屋へと続くドアを器用に開けた。
そこが寝室だということは、彼なりの勘で察したのかは分からないが。
その部屋に置かれているベッドに優しく私を下ろすと、零は覆い被さるように上へと跨った。
「・・・もう一度、しても良いか?」
指を唇に添わせながら問われると、一気に顔へ熱が集まってくる感覚を覚えた。
くすぐったくも感じる彼の指の冷たさに、自然と唇はキュッと結ばれて。
心臓は、飛び出してきてしまいそうな程ドクンドクン、と音を立てた。
「・・・ダメって言ったら、やめるの・・・?」
そんな事、言わないし言えないけど。
彼もそれは分かった上で、フッと笑みを浮かべて。
「やめられる自信は無いな」
そう言い終わるが先か、触れ合ったのが先か。
彼の唇が再び私の唇と重なると、首筋を這うように彼の指先が滑り、私の顔を両手で包み込んだ。