第16章 話合い
「命をかけてお守りしますよ」
下げた頭より上の方で声がした事に違和感を感じ顔を上げると、いつの間にか沖矢さんも立っていて。
彼の放ったその言葉は、妙に説得力があった。
私はそこまで求めてはいないけれど。
「さて、今日はお疲れでしょうからそろそろ休んでください。シャワー、使われますよね」
そう言いながら部屋の隅に置いてあった複数の紙袋を私に渡して。
「有希子さんが、貴女の着替えを用意してくださってます。この中からお好きなものをどうぞ」
「そんな・・・悪いです・・・」
「使われない方が勿体ないと思いますけどね」
そう言われると言い返す余地がない。申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、渋々紙袋達を受け取った。
「こちらへ。案内します」
扉を開けられて廊下へ促される。その横を通り抜け、扉の前で沖矢さんが出るのを待って。
案内されたお風呂場も広く立派で目を奪われた。
「そういえば、念の為に伝えておきますが。彼は今日、貴女がミステリートレインに乗ることが分かっていたようですよ」
脱衣所の服置き場に着替えを置きながら、沖矢さんに視線を向けた。
「・・・私、透さんに何も言ってませんよ」
「悟ったんでしょうね。貴女が着ているワンピースに発信機がついていましたので」
ドキッとして、ワンピースの色々なところをキョロキョロと見渡した。もう何も無いとは分かっているのに。
「列車に乗る前に気が付いたので、遅いことは分かっていましたが、その時に外しました」
人混みに飲まれてはぐれそうになったとき、沖矢さんに肩を抱かれたことを思い出して。
「・・・警戒心が無くてすみません」
少し皮肉っぽく謝った。
それに対して沖矢さんは何故か笑みを浮かべて。
「いいんじゃないですか?それくらいの方が可愛げがあって」
やっぱりこの人、どこかいけ好かない。
あからさまに怒った顔を向けて、彼への警戒心を漂わせた。
「怒ると可愛い顔が台無しですよ」
ダメだ、沖矢さんはこういう人だ。
でも・・・
この状況だと、透さんも同じようなことを言いそうだな、なんて考えると、勝手に悲しくなって。
「案内ありがとうございます。もう大丈夫ですから、そろそろ出てください」
「これは失礼。どうぞ、ごゆっくり」
笑顔を崩さないまま、彼は脱衣所を後にした。