第16章 話合い
「でも・・・、あの時感じた視線は前にも一度・・・!」
あの時はポアロの前。
その時も透さんが助けてくれて。
「それは恐らく僕ですね」
耳を疑った。それはそれで問題がある。
どういうことかと目で聞くと。
「貴女のことをコナンくんから聞いて、姿を確認しに行ったことがあります。あの時はかなり怖がらせてしまったようですが、ね」
また嘲笑うような笑顔。
この人は少し・・・いや、かなりデリカシーにかける人のようだ。
少し軽蔑の含む視線で彼を睨んで。
「まあ・・・今日、車内で手首を掴んだ際に、怖い顔で振り払われた理由が分かって安心しましたけど」
それはストーカーの話をする際に一緒に話したこと。あの感覚は暫く忘れられそうもない。
「てっきり貴女に嫌われたのかと思いました」
そう言うと、床についている私の片手を優しく拾い上げ、手の甲にそっと口付けられた。
その瞬間、言葉では言い表せられない複雑な気持ちになって。
「・・・っ」
何も言えず、ただ乱暴に彼の手を振り払った。
この鼓動が早くなっていくのは何なのか。
背徳感、罪悪感、緊張感、もしくは・・・。
・・・何を感じているのか自分でも分からなくて。
「からかわないでください」
沖矢さんの顔は見れなくて、ただ床に視線を向けたままそう告げる。
「おや、これは失礼」
声だけで笑っているのが分かる。
沖矢さんの手の平で踊らされているような気がして、心底悔しかった。
「とりあえず、暫くの間はここに泊まってください。幸い、部屋は沢山ありますので。有希子さんにも許可を頂いています」
そうしたくはなかったが、透さんが私を探しているとしたら。
見つかってしまった場合、沖矢さんやコナンくん達に迷惑がかからないとは言い切れない。いや、必ずかかる。
そして私は最悪の場合・・・。
それはそれで本望だと思ってしまう私は、やっぱり狂っているのかもしれない、と思いながら私の横で膝をつく沖矢さんの前に、ゆっくりと立ち上がった。
「・・・よろしくお願いします」
悔しいが、沖矢さんに深く頭を下げた。
今頼れるのは目の前の彼しかいなくて。
こんなことになっても、会いたいのは透さんなのに。