第107章 零から
「ど、どういうことですか、赤井さん・・・っ」
零にも事情を聞きたい所ではあるが、一番事の流れを分かっているのは彼だと思ったから。
零の背後に立つ赤井さんに目と声を向けると、彼は視線だけをこちらに向けたが。
「そういう事だ」
説明を放り投げた。
「・・・ッ」
戸惑いも、ここまでくれば怒りに変わる。
「ちゃんと説明してください・・・っ!」
零に会えた喜びよりも、この状況の飲み込め無さの方に気が行き、久しぶりに声を張り上げた。
私のその様子を見てか、ようやく説明する気になった赤井さんは、私達にゆっくりと近付いてきて。
「安室くんが今言った通りだ。君は証人保護プログラムを受けていない」
再び説明にならない言葉を、煙と共に吐き出した。
「どうして・・・っ」
その理由が知りたいのに、と睨み付けながら怒りを露わにすると、相変わらず冷静な表情を崩さないまま言葉を続けた。
「必要が無いと、我々FBIが判断したからだ」
・・・必要、無い。
じゃあ一体、この約一年の時間は何だったのか。
「そもそも、君が証人保護プログラムを受ける理由は何だ?」
淡々と私に尋ねる赤井さんの様子を、零は静かに見守っていて。
口を出さないということは、零は全てを知っているという事なのか。
「組織から・・・目をつけられた、から・・・」
命の危険があるから。
だから対象になったのだと。
最初の説明でジョディさんに、そう聞いたから。
ずっとそうなのだと思っていたけど。
「組織のことは既に方がついた」
「・・・!」
いつの事、なんて質問は気になる所ではあるが、今すべきでないだろうか。
そもそも、方がついたからと言って・・・。
「終わる目処がついているのに、君に証人保護プログラムを受けさせる必要がないと判断しただけだ」
確かに、組織をどうにかするのは時間の問題だとは言っていたけど。
でも、それは。
「結果論・・・ですよね」
結果、この一年程度で方がついたとしても。
実際はそうもいかなかったかもしれないのに。
証人保護プログラムを受けさせないというのは、リスク以外の何ものでもないように思えた、が。
「いいや」
そんな私の考えを嘲笑うように、彼は微笑んで。
「日本の警察とFBIは、優秀なんでね」
そう、勝ち誇った様子で言ってみせた。